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ねえ、聞こえているかな。
私はあなただけが好きなんだ。
大雨が降った。その前から雷が鳴っていた。空には光が走り、連日体を震わすような音が響いていた。
あなたは言った――もうすぐ夏だね。と。
毎年の事だ。毎年、祇園祭の前はひどい雨が降る。7月頭、いくつもの山鉾が立ち、それにつられて、たくさんの屋台が、天気に怯えながら出店するのだ――。
今年は一緒に行けないんだ。あなたは言った。
祖父の七回忌で、どうしても父の地元に帰らないといけないのだと言う。いつもいつも親不孝でジジ不孝だけど、今回くらいはね。ごめんな。と少し笑った。
私はあなたを縛るつもりはない。いつもなかった。でも、その時はどうしても「行かないで」と言いたくなった。お付き合いして5年目の記念日だよ、と言おうとして、別に毎年一緒にお祝いしていなかったことに気がついて黙った。
私はあなたを笑顔で見送った。
コンチキチン、と軽やかな音を一人で聞いていた時、あなたから電話がかかってきた。
「もう会えないのかもしれない」
あなたは言った。
すぐに助けに行くと言ったら、あなたは苦しそうに息を吐いた。
「来ないで。頼むから」
そして、電話越しでも耳をふさぎたくなるような――轟音が響いた。
「ごめん。ありがとう」
それがあなたが地に飲まれた音だったことに気が付いたのは、次の日の朝のことだった。
コンチキチン、コンチキチン。
今年も聞こえる。
軽やかな音と共に、体を全部ぐしゃぐしゃにされるような轟音が。
すぐに助けに行った。でもあなたはもういなかった。
涙すら泥に変わった。だけどもうどうしようもなかった。
7月15日。都が一年で一番賑わう夜。
「おかあさん、宵山やでぇ。一緒に行こうや」
「お母さんは行かへんねや。はよ行ってはよ帰って來ぃ」
私は今年もあなたを、思う。
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