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やらしい気持ちなどない。あるのは、未踏の地へ歩みを進めるという強い意志と知的好奇心である。ほんの一週間ほどの小さな旅。胸の高鳴りが抑えられない。
──今日は終業式。むさ苦しい大部屋に400を数える生徒が詰め込まれる。ステージの上では台本通りに淡々と繰り広げられる茶番。生徒会長のくだらない言葉、校長の綺麗事ばかりで中身のない話。生徒指導の先生の叱りの言葉。教頭の進行のもと、延々と続くこの式を、幾多の生徒は文句も言わずに耐えている。体育座りで一様に陳列した生徒たち。なかには、腹痛にもがく者、尻の骨の軋みに耐えかねる者、暑さによって湧いた汗水を手で払う者。そして、あるときを待ちに待ち、待ちくたびれている者──俺だ。
俺の高校には毎年夏季休業中に、ある行事がある。それは、短期留学だ。俺の学校は姉妹校提携かなんかをしている。その姉妹校ってのはけっこうたくさんあって、ブラジル、インドネシア、そして中国の学校だ。今年俺の高校は、中国の姉妹校とのあいだで生徒を交換する。それが、これからの俺のイベント、短期留学だ。
俺は昔から中国が好きだ。温暖で湿り気の多い、日本と似たようで違う、歴史の詰まった大国が俺は好きだ。中国語も好きだし、中国料理も好きだ。それに、中国の女性も大好きだ。
そんな俺に吉報が届いた。俺が、映えある代表生徒として、中国へ渡ることとなったのだ!
──俺はやらしい気持ちなど全くない。純粋な気持ちで留学する。だから、俺は式中に、最善の美を追求した歩みでステージに上り、そしてどうどうと、はつらつと、
「いってきます」
と挨拶を残した。
″おいおい、聴いてるか生徒諸君″
何もなかったかのようにぼーっと話を聞く凡庸な生徒たち。まあいい。俺は何があっても中国に行くんだ!
……そう心に決めていたから、俺は許さない。台風12号を許さない。飛ばない飛行機を許さない。だって……だってぇ…………
チャイナ美人が待ってるんだよぉぉおおお!!!!
完
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