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「お姉さんも、その噂知ってるんだー!」
弥生は、至って軽い調子で返す。
けれど今のこいつの顔は、何かを企んでいる顔だ。
長く一緒にいた俺にはわかる。
きっと、マジア島から帰ってきたあの人の事を聞き出そうとしているのだろう。
昨日のうちに俺が調べた資料は全て見せたし、俺じゃなく弥生が話したほうが確実だということも話し合っていた。
「当たり前よ。有名な噂じゃない。
青い屋根の家に一人の青年が住んでいて、その青年は魔法のアイスを作っているのだとか」
「そのアイスを食べた者は幸福になる。
それが魔法使いの彼がかけている魔法の中身」
弥生はお姉さんの噂話にのって話を続けた。
「僕は、魔法使いの彼を探しているんじゃない。そのアイスを食べに行くんだ。……幸せになるために」
演技派な弥生は、ここで少し悲しそうな顔をした。
本当は魔法使いを探しに行くんだよ、なんて口裂けても言えないな。
「あら、そうなの。
そのアイス、見つけたらお土産としてこの街に持って帰ってきて欲しいわ。
あの頃のように幸せ溢れる街に、もう一度住んでみたいもの」
「……ええ。僕もですよ」
「昔ね、この街に幸せをもたらすために、マジア島へと旅立った人がいたの。
でもね、彼は駄目だった。帰ってきたと思ったら、人が変わったかのようで。目は虚ろになり、何を聞いても答えず、帰ってこれたのが不思議なくらいだったわ」
「……彼は、今はどちらに?」
「もうこの世にはいないわ。帰ってきてから2日目、家で首を吊って死んでいたの」
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