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4.あさりのバターソテー
やがてお父さんは海の家の仕事に戻り、接客や調理を始めた。厨房にはお母さんもいるらしい。
よくよく話を聞くと、九野さんの家は近くの海岸通りにあるとのことで──。
九野さんが海の家の子でしかも手伝いまでしてるなんて意外だったが、僕は家業を手伝うという同じ境遇に親近感さえ抱いていた。
もうしばらくこのお座敷席を借りる事になった僕は、調子を取り戻すまで横にならせてもらっていた。
傍らには、九野さんの気配がする。
さわさわとそよぐ風──九野さんがうちわで僕を扇ぎ続けてくれているのだ。その優しさに感動する。
しばらくすると、「すいませーん」と若い女の人の一際大きな声が店内に響いた。
それに続く「はーい」というお母さんの接客する声。
「えっとぉ、生中二つとぉ、焼きそば二つとぉ」
「あと枝豆とぉ」
二種類の女の人の声がテーブル席の辺りから聞こえる。
「あと、あさりのバターソテー」
確かに耳に届いたフレーズに、僕はハッと目を開けた。
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