2068年7月

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佐藤はタブレットを操作し違うグラフを見せてきた。 「こちらは、現在の企業が求める人材のグラフです。決断力、対応力、適応力。ほとんどの企業はこれらを求めております。仕事にすぐ適応出来る力、アクシデントにもすぐに対応し、決断出来る力ですね」 「確かに必要だな」 「また、企業はどんどん個人主義、結果主義になってきております。昔のようにコミュニケーション能力だ、チームワークは必要とされず、どれだけ結果を出せるか、他の人と差をつけられるか、緊張せずに勝負に出られるかがこれから必要となってくるでしょう」 本当にそれでいいのだろうか。思いやりもなく、孤独な人間になってしまいそうな気がする。仕事が出来たところで幸せになれるのだろうか。 「ねぇ、あなた?」 「IQが高く、メンタルが強い。運動神経も良く、体力があり、仕事の出来る子でお願いします。詰め込みすぎですか?」 「ちょっと!」 私は夫の袖を引っ張った。しかし夫は私を腕で制し、目で黙っていろと告げてくる。 「いえ、全然。きっとプログラムを続けていく上で、これからどんどん子供への欲は深まると思います。それに、これは子育ての練習です。替えが利くクローンなのですから、どんどん我儘になっていただいた方が研究としても助かります」 「では、それでお願いします」 「あの!」 二人の視線が私に向く。夫は文句でもあるのかと言いたげな目で見つめてくる。 「あの…どういう子が将来幸せになるとかは、わからないんですか?」 「仕事で成功すれば金も地位も名誉も手に入る。そして人間だってついてくる。幸せだろう?」 それが本当に幸せなのかっていう話だ。夫の言うような子に育てれば…この子に残るのは虚しさだけなのではないだろうか。 「奥様のご心配も最もです。ただ、やはり幸せの定義とは人によって違っていきますので…ねぇ。しかし一応、クローンに何かあるごと幸せ度調査も行いますよ」 どうしてだろう。佐藤は凄い心理学者なのかもしれないが、子供の話になるとどうも…冷たい気がして、どうも信用しきれない。 「大丈夫ですよ!頭が良いってことは、社会での生き方も幸せになる方法も自分でわかるものです。まずクローンを育てて、違うと思えば本番でプログラムの育て方をしなければいいだけです。そのためのクローンでもあるのですから」 「…わかりました」 とにかくクローンを育ててから考えることにした。
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