2068年7月

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「子供の名前…どうする?お腹の子は善一(ぜんいち)、一番善い人生を歩めるようにって決めたよね」 良い名前だと思う。古くさいキラキラネームと違い、今の時代に好まれる日本人らしい名前。きっと馬鹿にされることなく過ごせるはずだ。 「この子は…零善(れいぜん)。善一の前に生まれた子だから」 私たちはクローンのそばに腰を下ろした。 「零善…」 私がそうつぶやくと零善は私の膝に手をのせた。小さな小さな手を。私は自然とほほ笑んだ。 『部屋にあるものは自由に使っていただいて構いません。本やおもちゃも理想のお子様にあった物をご用意していますので』 佐藤の声がスピーカーから聞こえた。 部屋の中は私たちの家のリビングと似ているが、よくよく見ると知らない絵本やおもちゃが棚や机に置いてある。 机に見覚えのないタブレットが置いてあった。私が手をかざすと育て方という文字が表示された。 私はいくつか選択肢がある中で遊び方という項目を押した。 「頭のいい子に育てるには…絵本の読み聞かせ、手足を使うおもちゃ…運動…」 この部屋のどこにあるか、使い方、効果がそれぞれの項目に書かれていた。 私がそれを読んでいると零善が急に泣いた。 「おい、泣いたぞ。どうしたらいい?」 「どうして泣いたの?何したの?」 「俺は何もしてない!急に泣き出しただけだ!」 私は急いでタブレットに目を戻した。夫が何か文句を言っているが無視だ。
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