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「子供の名前…どうする?お腹の子は善一(ぜんいち)、一番善い人生を歩めるようにって決めたよね」
良い名前だと思う。古くさいキラキラネームと違い、今の時代に好まれる日本人らしい名前。きっと馬鹿にされることなく過ごせるはずだ。
「この子は…零善(れいぜん)。善一の前に生まれた子だから」
私たちはクローンのそばに腰を下ろした。
「零善…」
私がそうつぶやくと零善は私の膝に手をのせた。小さな小さな手を。私は自然とほほ笑んだ。
『部屋にあるものは自由に使っていただいて構いません。本やおもちゃも理想のお子様にあった物をご用意していますので』
佐藤の声がスピーカーから聞こえた。
部屋の中は私たちの家のリビングと似ているが、よくよく見ると知らない絵本やおもちゃが棚や机に置いてある。
机に見覚えのないタブレットが置いてあった。私が手をかざすと育て方という文字が表示された。
私はいくつか選択肢がある中で遊び方という項目を押した。
「頭のいい子に育てるには…絵本の読み聞かせ、手足を使うおもちゃ…運動…」
この部屋のどこにあるか、使い方、効果がそれぞれの項目に書かれていた。
私がそれを読んでいると零善が急に泣いた。
「おい、泣いたぞ。どうしたらいい?」
「どうして泣いたの?何したの?」
「俺は何もしてない!急に泣き出しただけだ!」
私は急いでタブレットに目を戻した。夫が何か文句を言っているが無視だ。
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