終わりの夏に

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もう一度、水面から顔を出すと遠くから子ども達のはしゃぎ声が聞こえてきた。声のする方へと目を向けると、川沿いの土手を10人近くの子ども達が笑い合いながら歩いて来るのが見える。きっと今日も町内会主催のラジオ体操に向かっているのだろう。折角の夏休みなのに、ラジオ体操をする為だけにこうして早朝から毎日の様に駆り出される訳だ。場所は昔から変わらず、この町唯一の小学校のグラウンドだ。全く、迷惑極まりないイベントである。というか今時、毎日毎日こんな朝っぱらからクソ真面目にラジオ体操なんかに通う子どもなんて、この町の子どもくらいしかいないのではなかろうか。古い慣習にいつまでも取り付かれたまま、それに気付かずずるずる引きずっているのだ。これだから田舎町は嫌いだ。今日この瞬間も目まぐるしく変化しているであろう都会の街が心底羨ましい。 まぁ、自分には関係のない事だけど。 そんなどうでもいい事を考えながらも、今日も”あの子ども”の姿を確認する。 意気揚々とラジオ体操に出かける子ども達の中の一人。今日も今日とて無邪気に屈託のない笑顔を見せる”あの子ども”。 ちゃんとそこにいる事を確認し、その背中を見送る。いつものように、また後で姿が見られる事を願いながら。
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