第1話~導~

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いったいなぜ心当たりがあるのか、分からないまま、会話を続けた。 北見は、少し間をおいてから、はにかんだ仕草で 「私あんまり頭のいい大学出てないので、不安なことが多いですよ」 (こういう人に限って、わりと良いところなのが通例だが) 俺は勇気を出して 「名美(めいび)大学の経済学部なんです。北見さんは、どこの大学を…?」 ーーー名美大学というのは、都内にある中堅どころの大学で、学生数が全国1位でスポーツ分野に強い大学だ。俺はそこでサッカー部に所属していた。 「私は敬高(けいこう)大学の法学部です。でもスポーツの才能は開花しませんでした。へへへ」 俺は苦笑した。 (やっぱり、そうなるか) ーーー敬高大学とは、大阪にあるややランクの高い大学。しかも、スポーツ分野で現役選手の活躍も多々あるが、名だたるアーティストを輩出している有名な学校でもある。 (俺より偏差値10以上は高い…しかし、なんでまた。もっといい就職先がありそうなのに、なぜ、この会社に決めたのだろうか) 俺はそんな素朴な疑問を抱えながら、偏差値の壁については、見て見ぬふり状態。 「確かに、北見さん見た目スポーツできそうですもんね」 北見は口を一瞬一文字にして 「んー、それをよく言われますね。実は、スポーツは苦手で…あ、でもその代わりと言ってはなんですが、いろんな資格をとって、なんとか足しにしていました」 俺は眉をあげ 「へぇぇ、すごいですね。俺なんか資格は全くとっていませんでしたからね」 と感心した。 というか、せざるを得なかった。 (俺は資格もなければ、偏差値も……まぁ仕方ない) 劣等感の波に対する防波堤は、しっかりと作られているので大丈夫だ。 俺はふと、最初の疑問を北見にぶつける。 「敬高大学ということは、地元がそっちなんですか?」 「あぁ…いえ!地元は、違うんです。私、幼い頃にーーー」 コンコンコン、ガチャ!ーーー 扉が開き、スーツ姿の女性。 「お待たせしました、では移動しますので準備をお願いします」 と、手慣れたように爽やかな笑みを浮かべる女性。 俺たちは、2人で荷物をまとめ、女性の案内で部屋を出る。 いよいよ入社式だーーー
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