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いったいなぜ心当たりがあるのか、分からないまま、会話を続けた。
北見は、少し間をおいてから、はにかんだ仕草で
「私あんまり頭のいい大学出てないので、不安なことが多いですよ」
(こういう人に限って、わりと良いところなのが通例だが)
俺は勇気を出して
「名美大学の経済学部なんです。北見さんは、どこの大学を…?」
ーーー名美大学というのは、都内にある中堅どころの大学で、学生数が全国1位でスポーツ分野に強い大学だ。俺はそこでサッカー部に所属していた。
「私は敬高大学の法学部です。でもスポーツの才能は開花しませんでした。へへへ」
俺は苦笑した。
(やっぱり、そうなるか)
ーーー敬高大学とは、大阪にあるややランクの高い大学。しかも、スポーツ分野で現役選手の活躍も多々あるが、名だたるアーティストを輩出している有名な学校でもある。
(俺より偏差値10以上は高い…しかし、なんでまた。もっといい就職先がありそうなのに、なぜ、この会社に決めたのだろうか)
俺はそんな素朴な疑問を抱えながら、偏差値の壁については、見て見ぬふり状態。
「確かに、北見さん見た目スポーツできそうですもんね」
北見は口を一瞬一文字にして
「んー、それをよく言われますね。実は、スポーツは苦手で…あ、でもその代わりと言ってはなんですが、いろんな資格をとって、なんとか足しにしていました」
俺は眉をあげ
「へぇぇ、すごいですね。俺なんか資格は全くとっていませんでしたからね」
と感心した。
というか、せざるを得なかった。
(俺は資格もなければ、偏差値も……まぁ仕方ない)
劣等感の波に対する防波堤は、しっかりと作られているので大丈夫だ。
俺はふと、最初の疑問を北見にぶつける。
「敬高大学ということは、地元がそっちなんですか?」
「あぁ…いえ!地元は、違うんです。私、幼い頃にーーー」
コンコンコン、ガチャ!ーーー
扉が開き、スーツ姿の女性。
「お待たせしました、では移動しますので準備をお願いします」
と、手慣れたように爽やかな笑みを浮かべる女性。
俺たちは、2人で荷物をまとめ、女性の案内で部屋を出る。
いよいよ入社式だーーー
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