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入社式は、大きな会議室で行われた。
そこには、20人ほどの全社員が集まる。
新入社員は毎年取っているわけではないらしく、快く俺たちを迎え入れてくれた。
そこでは、最後に辞令が出て、俺は商品企画の部署に、北見は総務にという配属先が明らかになった。
俺は終始、北見が持っていた、あの傘への見覚えが気になり、なぜだろうか、どうしても頭から離れられないでいた。
入社式の後は、昼食休憩を挟み、研修を受けた。
各部署の案内や、授業さながら商品知識や業界事情の事など、座学講習を受けた。
そして、最後に試験を受け、この日は終了となった。
ーーー2人で最寄りの駅まで歩いて帰るときのこと。
すっかり上がった雨に、沈みかけの太陽のきらびやかさが辺りを照らす。
北見は、ぐーっと空に手を伸ばしながら
「大学の授業とは違って、こういう場で長時間座るのって、なかなか体力いりますよね」
と、肩の力を抜く。
北見の手には、あの傘が握られている。
俺は、チラッと傘を見ては、最初感じた心当たりについて思い出そうとする…
しかし、なかなか、なんの心当たりなんだか、思い出せない。
俺も軽く肩を回しながら、緊張気味の身体をほぐし
「いや、ほんと。大学の授業で慣れたつもりだったんですが、こういう慣れない環境には役に立たないみたいです」
北見は肩にかけてるカバンをかけ直し
「ふふふ、大学の授業ほどリラックスして聞いて入られませんもんね」
と、微笑。
俺も軽く笑みを浮かべ、遠くを見やる。
そして、当時を懐かしく振り返るように
「しかし、不思議なもんです。懐かしく感じますよ、あの大学生の頃が…だって、つい最近の話なのに」
北見も、懐かしむように遠くを見つめ
「なんだかノスタルジックですね。大学生活を振り返ると、やっぱり早かったな、と感じます」
と、微かな笑みをこぼす。
俺は静かに数回頷いて
「つい最近まで、大学で授業受けて過ごしていたのに、早いもんですよねぇ」
とため息混じりに。
「そうですね、あっという間なんですよねぇ。気づいてみれば…いつもそんな感じで、気づけば時間は過ぎていますよね」
俺と北見は、こんな他愛もない話をしながら、水たまりを避けつつ、駅へ向かう。
そんな中、俺は、ふと思い出した。
ーーーあ、そういえば、北見さんって、地元は関西じゃないんだっけか。
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