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遠くの空、雲が速く流れていく。まるで今までの時間の流れのようにーーー
俺は、さっきふと思い出したことを聞いてみることに。
「そういえば、最初会った時、言いかけてましたけど…北見さんは、地元は出身大学の方じゃないんでしたっけ?」
「あ、そうなんですよ。あの時、途切れちゃいましたもんね。私は、もともと東京にいたんです」
「そうなんですね、大学の関係で向こうへ?」
「いえ、子供の頃でした、向こうへ移り住んだのは。親の仕事の関係でした。本当は、そのまま地元で暮らしたかったんですけど…」
「子供の頃からだったんですね。それは大変でしたね」
「うーん、そうですねぇ、確かに不安なところはありましたし、慣れるまでは苦労ありました。あはは……」
思わず苦笑するが、すぐ明るい表情で
「ま!でも見知らぬ土地で一からというのも、今思い返せば良い経験だったのかもしれません」
(立派な考えを持つ人だなぁ)
俺は素直に感心しながら
「経験は、確かに大事ですよね」
北見は、おどけたように
「なので、私実家が関西になってしまったんですよ」
「ははは、俺なんて、ずっと地元から出てませんから。愛着もあり、地元に恩返しがしたいというのもありますけどーーー」
と、苦笑い。
すると、北見は強い風に吹かれた前髪を手櫛で整えながら、2、3秒考えるような素振りをする。
北見は、ふと我に返ったように
「恩返し、良いですね!」
(ーーー??なんだろうか今の間は…)
と、気になりはしたが
「まぁ恩返しといっても何ができるのやら、ですけどね。模索中です」
ネクタイを少し緩めて、会話を続けた。
北見は、少し目を泳がせながら
「あ、えっと、私は地元がここなんです。だから、戻ってきたいなぁ…なんて思って、就職先探して、今に至ります」
「俺も地元ここですよ。結局、地元から出ずに終わりました、ははは」
すると、なぜか北見が神妙な顔つきとなった。
俺は不思議に思い
「あ、どうかしましたか?」
と尋ねると、ふと柔らかい表情に戻り
「いえ、すみません!ちょっと考え事してしまって!えへへ…」
北見は苦笑いをしながら話を続けた。
「あぁそうそう、私、一時期……」
北見の声のトーンが急に変わった。
「水泳を習ってたことがあるんですけど……もしかして神谷さんーーー」
俺は、そこで咄嗟に
(水泳…傘…そうだ、傘の見覚えはーーー)
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