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寮では土日に家へ帰れることになっている。寮の管理をしている佐々木さんに『帰宅願い』を出せばそれでいい。昔は本当に帰っているかどうか実家に教師が電話をかけていたが、プライバシー保護のこともあって、もうそれはない。 拓実はこのところ毎週帰宅していた。二年になって一仁と暮らすようになってからほとんど帰っていなかったのが、毎週である。 「おふくろの具合わるくてさ」 嘘だったので、拓実は苦しい顔をした。それがかえって本当らしくみえたようで、一仁は本気で心配してくれた。 「土日くらい店を手伝わなきゃな」 「俺も手伝おうか?」 「いや、そんな俺自身見られたくないし」 拓実の言い方は一仁の男ゴコロを打った。 「わかった。そのかわり、お前の宿題俺が片づけてやるよ」 一仁はいい奴だ。 拓実は昔から嘘をつくと背筋がザワザワする体質だった。この時も這い上がってくるむずがゆさを我慢して、真剣な顔で礼を言った。 あれから一仁はふっきれたように自分を取り戻していた。もう回りに当たり散らすこともないし、憂鬱に押し黙っていることもない。夏休み前と同じように明るく穏やかに過ごしている。時折うなされることもあったが、拓実がゆさぶって起こしてやると、ぼんやりした目で拓実を探し、確認すれば安心して眠った。大きな体で、枕元においた拓実に手にすり寄る様は、どこか大型犬を思い起こさせた。 一仁に嘘をつき、拓実は、彼が襲われたという公園に通いつめた。夕方から夜の九時まで、毎晩公園のベンチに座っていた。秋だったができるだけ薄着で、ジーパンもやめてショートパンツにする。人待ち顔で、時には本を読みながら。 一仁は背広を着ていた、と言った。サラリーマンかもしれない。この公園を通り道にしているのか、職場がこの近くなのか、ひょっとしたら仕事の都合で寄ったのか、可能性はいくつもあった。 拓実は警官じゃないから周辺の聞き込みなどできない。ただ、じっと待っているだけだった、相手が罠にかかるのを。
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