episode 01【先輩と出会う】

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「廃部?」   いざ写真サークルに入ろうと赴くや否や、いきなり壁にぶつかった。まさかの人数不足によりサークル存続の危機だという。   それならもっと勧誘の時に躍起になるべきなのではないだろうか?   今はそんなことはどうでもいい、と余計な考えを取り払うように次の言葉を探す。 「どうにかならないのでしょうか?」 「どうにかしたいのは山々なんだけど……」  実に歯切れの悪い返答だ。 「あるにはあるんだ。存続の方法が。でもね……」  線が細く、見るからに気弱そうな部長が深いため息をつく。 「方法…?」   そう尋ねると彼は伏せ目がちになる。 「他のサークルとの合併なんだけど……」  そこまで部長が言ったと同時に、少し乱暴に部屋のドアが開いた。 「益若(ますわか)くーん!いるー?」   どんよりとした空気を割くような声が室内に響く。   益若くんとは写真サークルの部長。すなわち、私の目の前で浮かない顔をしている彼のことだ。ドアの方へ振り返ると、そこには部長とは正反対のやたら覇気のある男が1人立っていた。 「そんな大きな声出さなくてもここにいるよ、坂上くん」 「益若くん影薄いからさっ! で。考えてくれた? うちとの合併!」  失礼な言葉を連ねながらズカズカと部室に入ってきた坂上という男は、部長まっしぐらに歩を進め、たじろぐ部長の肩に手をかけるとにっこり微笑む。  私はというと、突然の事にそんな二人を見ているしかなかった。 「その事だけど……」 「もしかしてオッケー?」  初対面であり直接会話をしているわけではないけれど、話を聞かない(ひと)だなぁ、というのが私の中の彼の第一印象。 「……って、君だーれ?」   やっとこちらに気づいたのか、坂上という男は私を見やる。 「写真サークルってこんな可愛い子いた?」 「彼女は入部したいって来ただけだから、まだメンバーではないよ」 「へー! 物好きもいるものだね!」  いちいちうるさい人だな、と第一印象からさらに悪い印象ばかりついていく。うるさいし、話を聞かない。人のペースをとことん乱してくる、はっきり言って嫌いなタイプの人だ。 「じゃあ尚更に合併の話、返事欲しいなぁ~」  ここで少し気になった。  合併ということは彼の所属しているサークルも存続の危機なのだろうか? 「……失礼ですが、貴方のサークルも存続の危機なんですか?」  話に割って入ると、彼は私に向き直り意気揚々と口を開く。 「ううん!うちはこれから発足するサークル」 「発足……?」 「メンツは揃ってるけど、認可が降りないんだよねぇ」  なるほど。だから、今ある存続危機のサークルを当てにしているのか。それは部長も難色を示すわけだ。 「うちのサークルと組めば、会報だって華やかになるよ!」 「それは、そうなんだろうけど……」  さっぱり話が読めない。坂上さんの言葉に首を傾げていると、それをいち早く察知し、私の密かな疑問への回答をすぐくれた。 「あ。うちのサークルね、モデルの卵が集まったサークルなの! 写真といえば被写体必要でしょ?」 「そうとは限らないと思いますけど……」  世の中には人間を被写体にするばかりではなく、木花や動物をその対象人もいるし、私もどちらかというとそっちをメインにしたい。  わかってないなぁ~、と坂上さんが私の顔の前で指を振る。 「一番楽しいのは、撮ってる側と撮られてる側が相思相愛の瞬間だよ? 可愛子ちゃん」  ……なんというナンパ野郎だろう。  モデルの卵だかなんだか知らないけど、図々しいは押し付けがましいは。 「はぁ…」  口論になるのも面倒で私は手短に相槌を打った。 「それにさ、あの有名なM.masakiの属していたサークルをこのまま廃部になんかしていいの? もったいなくない?」  やはり学内でもM.masakiの名は広く知れているようで、彼がそう言うと部長は押し黙っていると、無駄なものを置いていない部屋の中に、突然電子音がやけに響き渡る。  どうやら坂上さんの携帯のようだった。 「とりあえず、まだ時間はあるし考えてみてよ! いい返事期待してるよー!」  坂上さんは来た時と同様、嵐のように去って行き、残された私と部長はやはり黙ったまま彼が出て行ったドアを見つめた。
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