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美代ちゃんの声を背中に聞いて、振り返った。でも、視線は将司に釘付けだ。彼は呆然とした目で私を見上げてる。はは、笑ってやる。
「私も好きだし」
ぽつりと言った言葉は届かなかった。まあ、それでいいじゃん。まだ教科書見てないし。答えが書いてあるかどうかも分からないし。今はまだ、ね。言えなかった気持ちはたっぷりとあるわけなのだ。いつか思いきりぶちまけてやろう。
「千歳、早い」
くたびれた美代ちゃんの声が下から聞こえた。階段の踊り場で荒くなった呼吸を整える親友の姿が見える。ありゃ、しまった。私は待つことにして、空を見上げた。将司が告白してきた昨日の夜を思い出した。帰り際。陸上部の練習が終わって帰ろうとしたときに、声を掛けられた。ずっと待っていてくれたらしい。
うわー、恥ずかしい。教科書でもそんな告白、載ってない。国語の教師に聞いてみるといいかもしれないね。
「遅い、美代ちゃん」
「あんたが早すぎるのよ」
美代ちゃんがようやく追いついて、嘆きの声をあげる。空を見上げてジーザス。私と将司は目を合わせず、ふいっと視線を逸らすしかなかった。
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