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2.ほぼ∞回目+2回目
息子が憎い訳では無かった……と思う。
全て息子の為にやった事だった……と思う。
でも、全ては他人の記憶でも覗いているように、明瞭でありながら、何かの……そう『実感』とでも云うものを欠いている。
いや、既に死んでいるので、ある意味で「前世」の記憶なのか。「前世」の記憶であれば、仮に思い出す事が出来たとしても、こんな風に、自分の記憶なのに自分の記憶でないような不思議な感じになるのかも知れない。
閻魔様の前に連行されるまでの間、私の脳裏には、そんなとりとめも無い考えが浮かんでは消えていった。
私の前に、閻魔様の裁きを受けている女の子が、何故か、私を見て、恐怖の叫びを上げ……そして消えた。
あんな年端もいかない子供が、何か罪を犯したのだろうか?それにしても、どこかで見た気がする子だが……。
ひょっとしたら、私の息子が殺した女の子も、死の直前に、あんな風に泣き叫んだのかも知れない。
田舎の名家の当主である事以外に何一つ誇りを持てるモノが無く、「女は大学になんか行く必要など無い」と云うあの世代でも古臭い考えを持っていた私の父親。
そして、私は「『家』の存続」と云う、これまた、あの頃であっても古臭い理由で、二〇になった途端に、愛してもいない男と結婚させられた。
考えてみれば、夫も、愛しても無い女と結婚する羽目になり、旧弊な田舎の旧家の婿養子という肩身の狭い好きな事一つ出来ぬ立場で一生を終えたのだ。生きている内に、一度ぐらいは優しい言葉をかけるべきだったかも知れない。
そして、せめて、息子だけには、私と違って、自分の人生を選択できる力を与えてやりたい……その想いは空回りした挙句、息子の人生を狂わせ、一人の罪の無い少女の命を奪ったようだ。
父親が私の人生を狂わせたのは確かだが、私は父親がやったのと似てはいるが、より酷い真似をしてしまった。せめて、もう一度、人生をやりなおせるなら……。
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