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「世の中には死にたいけど自分では死ねない、いっそ誰かが安楽に殺してくれるなら代価を払ってもいい、そう思っている人が一定数いるの」
対面の女性は語った。
彼女は眼の前の、プリンラテとかいう、プリンを溶かしたなれの果てのようなものがたっぷり浮かんでいる飲み物を真剣に見つめている。
「あなたはわかるわよね、安楽死君」
「安楽寺です。安楽寺綾太郎」
あんらくじりょうたろう、と俺は一文字ずつ言い、
それから、このあやしい女にフルネームを名乗ってしまった自分のうかつさを悔やんだ。
駅前のカフェの席。
相席に座っている女性は指なしの白い手袋をした右手で、
カスタード色のラテが入ったグラスを持った。
年齢は、社会人一年生といったところだ。
彼女はアッシュとだけ名乗った。今のところ。
アッシュは英語で灰。
その名前の雰囲気に合わせたんだろうか。彼女のこづくりな顔を、
灰、いや銀色に近く色を抜いたストレートの長い髪が包んでいる。
その髪と、スレンダーな体によく似合う赤ワイン色の細身のパンツスーツで、彼女の目立つことといったら。
カフェ内の人たちの視線が未だ、チラチラとやむことなくこちらに差してくる。
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