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 おみよがまず思ったのは、自分は、よほどに運の無い生まれつきなのだ――ということだった。 (この人は、悪人でも嘘つきでもねがった。ちゃんとした人だった)  それはただ、その夜勇二郎が、おみよに手を出したりしなかったという一事のみによってのことだったが、ともかく久々に、本当に久々に手足を伸ばして一人で眠ったおみよは、ようやく勇二郎を信頼し、素直にその情けにすがる気持ちになっていただけに、衝撃は大きかった。  泣きながら近所に助けを求め、医者を呼んで貰い、必死に介抱したのは、勇二郎のためというよりは、たぶん、自分のためだった。  卒中で倒れたからと言って、必ずしも皆が皆、死んでしまうわけではないということを、おみよは知っていた。  今、勇二郎に死なれてしまったら、どうしていいか分からない。  やっぱり女郎になるしかないのか、また、地獄のような毎日に、戻されてしまうのだろうかと、ただただそれが、恐ろしかった。  やがて、門人達がやって来て、門が開いていないと騒ぎになり、裏の住まいへ回って来た者に、 「見かけぬ娘だ」  そう言われて、ぎくりとした。  今朝早くに旦那さんが倒れたのだ――と、言うと、大騒ぎになって、しばらくの間は、おみよのことなど忘れ去られていたようだった。  しかし、中の一人が、 「先生の所に、女中などいなかった筈だが……いつ、参ったのだ?」 「き、昨日……」 「昨日――?」  自分が来た途端に倒れたなんて、縁起でも無い。疫病神だと思われて、たたき出されるんじゃないかと、おみよはまた、怯えた。
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