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「あの、あの、旦那さん……先生は、おらの恩人なんだ。したから、おらに、先生のお世話ばさしてけれ。なんでもしますけ、このまま、ここさ置いてけさえ」
おみよは、勇二郎のことを、門人達に合わせて「先生」と呼ぶことにした。その方が、なんとなくふさわしい気がした。
門人達は、必死の形相のおみよに、困惑の表情を浮かべて顔を見合わせ、
「それは、我々が決めることではないが――」
勇二郎に妻子はおらず、住み込みの内弟子のような者もいなければ召使いの一人も置かず、何から何まで一人でしていたようで、どうしたところで看病する者が必要だったから、その申し出はあっさりと受け入れられた。
「しかし、もしこのまま先生が亡くなられたら、果たして給金が出るかどうか……」
「死ぬものか!」
思わず、大きな声が出た。
先生の弟子のくせして、なんという縁起でも無いことを言うのかと、腹が立った。
「おらが死なさねえ。銭っコなんかいらねえし、絶対に絶対に、おらが死なしたりしねんだがら!」
金なんか、本当にいらなかった。
(これで、先生が生きている限りは、ここにいられる)
それだけで、十分だった。
力仕事も、病人の世話も、一つも苦にはならない。それは、おみよが、まだしも幸せだったと言えた時代の暮らしそのものなのだ。
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