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「さすがに、小娘一人に任せておくわけにはいかぬ」
と、いうことになったらしく、門人達が二、三人ずつ、交代で詰めていたが、いたところで何をするわけでもない。所詮はお侍で、病人の世話などしたことはないのだ。
結局、夜になっても勇二郎は目を覚まさず、再び見舞いに訪れた医者は難しい顔をして、このまま目が覚めないかも知れない。もし目覚められても、おそらく元のお体には戻られないだろう――と、言った。
医者が、勇二郎の右腕を持ち上げて手を放すと、その手は顔を避けて体の横にばたりと落ちた。人は、完全に意識が失われていても、身を守るため自然そのように動くものなのだと言い、今度は左腕を取って同様にすると、手は、顔の上に落ちた。
「これは、お体の機能そのものが、損なわれております証にて……」
そんなことを、おみよにではなく、門人の誰かに低い声でぼそぼそと話し、門人達がひそひそとささやき交わす話題もやがて、勇二郎自身の心配ではなく、道場の行く末についての憶測ばかりになった。
(この人がたは、心底先生の事ば案じていなさるんだべか……?)
かく言うおみよ自身も、恩義を感じているというのは嘘ではないが、先生に生きていて欲しいのは、どちらかと言えば自分のためのようなものだったから、大きなことは言えないけれど――
別に目を覚まさないでも、このまま生きていてくれたらそれでいいという思いが、心のどこかに、確かにあった。それは、どんな状態でも構わないから、命だけでもあって欲しいと願う肉親の情とは、たぶん、違うものだった。
でも――
翌朝、勇二郎がぽっかりと目を開いた時、おみよは泣いた。
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