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 ……いや、待てよ。と、勇二郎は思った。  最初に目を覚ました時には確か、まったく他人の物のようであり、冷たいの暖かいのという感覚自体、ありはしなかったように思う。  だが今は、指先がまるで冬場に薄氷の張った天水桶に突っ込んだかのようにかじかんでいるのが分かる。指先を包み込む、おみよの手の温もりが分かる。  勇二郎は、小さく温かなその手を握ろうとしたが、やはり、それはかなわなかった。  しかし、おみよはその時、 「あっ、動いた!」  と、目を輝かせた。 「今、動いたよ、先生! ほれ、もっぺんやってみれ」 「………………」  なるほど、握り込むことは出来ないが、確かに指先がぴくりと反応している。  おみよはまた、 「動いた、動いた!」  と、満面の笑みを浮かべた。
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