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「これ以上、どんな罰が当たるというのだ!」
勇二郎が怒鳴った。
全くの寝たきりで、言葉もろくろく出なかった初めの頃に比べれば、大変な進歩だ。大声でわめき、人を突き飛ばすほどの力を出せるようになったのだから大したものだ。
(中気さ中っても、また畑さ出れるようになった人ば、おら知ってるもね)
おみよの父は、駄目だった。酒で肝の臓がすっかりやられていたということもあったし、何より生きる気力を完全に無くしてしまっていたのだ。
(けど、先生は、仁王様だものな)
もちろん、ここまで来る道のりだとて、決して平坦では無かった。
生きる気力を無くしていたという点では、勇二郎も負けてはいなかった。
むしろ死にたがりで気難しい厄介な類の病人で、自力で身を起こせるようになったのだとて、元はと言えば死のうとして、おみよが用心して枕頭から離しておいた刀掛けまで這って行こうとしてのことだった。
とにかく死ぬ気力だけは十分で、油断も隙もあったものでは無い。
このことがあって以降、おみよは刀を別室の完全に勇二郎の手の届かぬ場所へと隠してしまったため、以来勇二郎の機嫌はすこぶる悪かった。
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