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 おみよは、青ざめた。  卒中は同じ発作を繰り返す事が多く、一度目は助かっても、二度目、三度目で命を落としてしまうことも多いらしい。  怪我をすると、命取りになりやすいから気を付けなければならぬとも言われていた。 「先生、先生。大丈夫かい? 怪我はねえが?」 「……すまぬ」  激昂した後の勇二郎は、大概気弱になった。  声を荒らげ、ましてや事もあろう、おみよに手を上げてしまった…… 「謝らねぐていい。謝らねぐていいから……さ、おらさつかまれ」 「いくらなんでも無理だ、おみよ……」  はじめのうちは、勇二郎が怒声を上げたり、どたんばたんと音がしたり、おみよが悲鳴を上げたりする度に、道場の方から人が飛んできたりもしたものだったが、近頃では慣れっこになったのか、誰もやってこない。  勇二郎が元気な証拠だということになっているらしい。  一つには勇二郎が、門人達にこのような姿を見られることを良しとせず、威厳を取り繕おうとしてかえって昂ぶるということもあったが、要は面倒なのであり、逆鱗に触れるのが恐ろしいのだ。
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