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     *     *     *  はじめは、ただぼんやりとしていた。  体を動かすことも、言葉を発することも、出来ない。  門人達が入れ替わり立ち替わり枕頭に現れては、いろいろなことを言っていた。  すべて、聞こえてはいたが、それを理解し、考えることは、出来なかった。  ただただ、ぼんやりと、自分は死にかけているのだろうと思っていた。  実際、既に自分が死んでしまったかのように嘆き悲しんでいた者もあれば、しきりに道場の行く末ばかりを案じていた者も、いたようだ。  そんなことは、もう、どうでもよかった。 (なぜ、死ななかったのか……)  次第に頭がはっきりとしてきて、まず思ったのは、それである。  意識が戻った時、真っ先に己の手足が動くかどうかを確認しようとしたのは、別に卒中で体が不自由になったのではないかと懸念してのことではなかった。  それは剣客の習性で、全く無意識の行動だった。  そして、愕然とした。  左の手足の感覚が、完全に失われていたからだ。 (なぜ、父上や兄上のように、思い切りよく死んでしまえなかったのか)  格別、生への未練も執着も、無いつもりだったのに。  こんな、無様な姿で生き長らえるくらいなら、死んだ方がよほどましだ。  実際――もし手の届くところに刀があって、いま少し体の自由が利きさえすれば、おそらく自決していただろう。
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