それは、知らない間に

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 けたたましく鳴り響く爆発音と、鋭く研がれた刀が、巨大な肉を切り裂く音はヘッドフォンの中へ、薄暗い部屋からはカチャカチャとプラスティックのボタンを押す音だけが聞こえる。 「っしゃー! ナユタ氏お疲れでーす」  パソコン画面に向かいながらヘッドフォンと一体型のマイクに向かって喋る男、この男が高梨裕也だ。中肉中背、マッシュルームカットに整えられた髪、肌の色は色白の女子に匹敵するほど白かった。  真昼間から、カーテンを閉めている為、パソコン画面の明かりのみの部屋だ。必死にコントローラーを握り、画面に釘付けになっている。裕也をここまでさせたのは一週間前に発売されたオンラインゲーム『イミテーションナイトストーリー《I.N.S》』だった。  発売日の延期に延期を重ねて作り上げられた【I.N.S】は、ゲーム会社の渾身の作品となった。その甲斐あってソフトは瞬く間に、億の人がダウンロードした。  裕也もその中の一人だ。ボイスチャットでバーチャルの世界で会話する事が出来たうえでの、モンスターを討伐せんとクエストを進めるゲームだ。武器や防具は自分達で調達して、オリジナルのキャラクターを作れるなど、やり込み要素がふんだんに盛り込まれてある。  十代から三十代、さらにはそれよりも上の人達にも人気があり、【I.N.S】は社会現象にまで発展した。  ポンッと、画面の下にある会話の文書の出る欄に文字が浮かび上がる。 ナユタ:次、遂にラストクエスト、魔王討伐ですなぁ、早速行きましょうぞ! ユウヤ:了解、了解、討伐しましょうぞ  画面に表示される文字に対して、声で返事をすると、その声が文字になる仕組みだ。お互い会話をしながら戦闘準備に取り掛かる。一週間学校をサボってゲームに熱中すれば、なかなかの強者になっている。裕也のキャラクターも、ゲーム内では上位に入る程の強者だった。 ユウヤ:ほな、いっちょ、行きますかぁ ナユタ:了解した  quest startと、一面に表示されると、オープニングの映像が流れる。そのリアルさは、正に企業努力の賜物だった。
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