第1章

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「子供が…待ってますから」 いつもの常套句にため息をついてみせる。それはゼスチャーであり本心は20%くらいだ。 小田が男手ひとつで男の子を育てていることは承知している秀は、共働きだった両親にいつも放任されていた過去に子供と過ごせる時間を削ってでも会いたいとは口に出せなかった。 それでも… 好きな人と少しでも一緒にいたいと思う気持ちがスキンシップ過多という形で示すしかないと、意図的に小田に絡んでいる。 納屋に農薬をせっせと下ろす小田の後ろ姿に、抱きつきたい気持ちをグッと堪えその手伝いをする。 ほんとうはこんな軽い気持ちではない。スキンシップをしたいわけじゃない。 この人の人柄、物腰、話し方、そして人の気持ちに寄り添える優しいところに惹かれている。
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