第1章

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「セクハラだなんて思ってませんよ。私もこちらに来させて頂いて、親しくして頂いて嬉しいですから。それに、清田さんの料理美味しくて…誠(まこと)も毎日清田さんに会いたいって言ってます」 「そうなの?いつでも来て。あ、今夜なんてどお?ナスとピーマン、新たまも取れたし。独りで食べきれないからさ、誠と一緒に来て」 「ありがとうございます。本当にいんですか?助かる…私、料理苦手で…」 知ってる。心の中で頷いた。俺より二歳年上のバツイチ子持ちのこの人が、スーパーで惣菜を買いあさってるのは近所でも有名だ。都会育ちの寝取られ男だって事は田舎のばあさん達の井戸端会議の必須項目になってる。 まずはさ、胃袋掴まなきゃな…どこかのOLが吐くような台詞が頭に浮かぶ。 そんな事を思いほくそ笑みむ秀を、気が付かないくらい小田は家事がからっきしダメな男だった。 採れたての野菜をザクザクと水洗いし、子供が食べれるものを考えながら準備をしていく。 ハンバーグかな… 新玉ねぎを微塵切りにし炒めていく。ミンチ繋がりでピーマンの肉詰めと、ついでに餃子の下ごしらえをして持って帰れるようにタッパーに並べていく。 料理がからっきしダメな小田に持って帰らせる用だ。嬉しそうに笑う小田の顔を思い出しながらせっせと愛情を込めて作っていく。 料理は子供の頃に祖母に叩き込まれた。独りでなんでも出来るようにと、料理は母より美味かった気がする。 紫玉ねぎをスライスしサラダにする。買った食材は肉だけだ。時給自足の生活は、実は案外気に入っている。自分で作ったものを食べる安全性と恵に感謝するようになった。そうすれば愛情も湧く。そんな自適な生活は気に入っていた。 カフェでもすっかな…なんてこんな田舎に誰もこないだろうけど。 出来上がった料理を並べ、一息つくとジリジリと昔ながらの呼び鈴が鳴った。
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