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「セフレ…ですか…」
それを小田から聞くとズシリと重く響く。今まで自分がしてきたことに頭を掻き毟りたくなる衝動にかられる。
マイノリティな自分。それを受け入れてくれるなら誰だっていい…好みの相手がいれば誘いに軽く乗った。
受け入れてくれる誰かがいるという充足感が自分に拍車を掛け、麻痺していた感覚はあった。残る空虚感に耐えられなくなった頃、都合よくこっちに帰ることになった。
そんな秀とは違う、ノーマルな小田はセフレなんて無縁だろうとさらに落ち込んだ。
「俺さ、男しか好きになれないし、まして好きだの惚れただのって無縁でさ…誰かに好きになって欲しいって思ったことないんだよな…」
誰かを本気で愛したい。そして愛されたい。その願望は絶えずある。たとえ愛されなくても愛したいと思っている。
叶わない想いでも、想い続けるのは自由なんだからと諦めからの片思いだった。小田を好きになり、宮沢との関係を続けることが良くないことはわかっていたが、それでも自分を求めてくれる宮沢に情はあった。
「…でも…宮沢さんは…清田さんのこと…」
「あいつは向こうにいた時から、他にもセフレは何人かいた。俺はその中の一人だったし、事後報告で結婚したんだって聞いたくらいの仲なんだよ。今更、全部切ったって言われてもそれ以上の関係にはなれない。俺は俺だけを好きになってくれる人を好きになりたい。そんな出会いの確率なんてほとんどないけどさ」
自暴自棄に聞こえただろうか。最初は投げやりな気持ちで小田を好きになった。
振り向いて貰えなくてもと、諦めからの始まり。
洗い終わった秀は横に立つ小田を伺うように覗き見た。小田は俯いたまま珈琲を煎れていている。だかその表情からはなぜか浮かない感じが伝わってくる。
「私は…清田さんのこと…素敵な人だと思ってます。なんでも出来て、誠を可愛がってくれて…私にも…貴方の好意はちゃんと伝わってます…だけど…」
言い淀む小田の肩を握り締めこちらを向かせる。思っていることが知りたいと秀は強く掴んだ。
「だけど、なに?」
何度も唇を動かしては閉じてしまう。その躊躇いはなんなのか。これから始まるかもしれない関係に秀は焦り小田に詰め寄った。
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