0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
それにしても今日は随分信号に捕まる。
国道沿いだから仕方のないことだが、点滅信号にならない赤信号を睨みつける。
もういいや、渡ってしまえと一歩踏み出そうとしたが、また、歩道の向こう側に人影だ。
ここで私だけ信号無視をして渡ってしまうとバツが悪い。
私はビールの残りをグイっと飲み干した。
左手には閉店したラーメン屋、車道を挟んで右手には昔ダーツバーをしていた今はテナント募集中の張り紙をされている建物。
横断歩道の向こう側には-・・・。
ここで私はやっと気づいた。
先程から、同 じ 道 を 、 通 っ て い る ?
冷たく弱い風が頬を撫でる。
缶ビールから滴る水滴が冷たい。
私の前で光り続ける赤色が鮮明に映し出される。
その下で、静かに信号の色が変わるのを待っている人影。
周りの建物は漆黒に塗りつぶされ街灯はぼんやりと小さな点滅を繰り返す。
人影、としか判断のしようがない、男女どちらともとれない影。
信号が青に変わる。
私の足は歩み始め、ただ一心にその顔のような部分を視界に入れないようにまっすぐ前だけを見て歩く。
その人影とすれ違う。
横断歩道を渡りきり、立ち止まってしまう。
振り返るな、
見るな、
進め、
そんな自分への制止も関わらず目は先ほどすれ違った人影へとうつされてしまう。
その人影は、こちらを見ていた。
確かに、黙って、横断歩道の真ん中で立ち止まり、こちらを見ていた。
真っ黒の、無い、顔で、こちらをー。
瞬間、人影が立っていた横断歩道を車がものすごい音とともに駆け抜ける。
思わず悲鳴をあげ腰を抜かしたが、人影はいなかった。
横断歩道には転がった空き缶の音だけが響いていた。
最初のコメントを投稿しよう!