最終章 良夜 (りょうや)~月の明るい夜~

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拓人の離婚が成立したのは 葵に会いに来た半年後のことだった。 信じて待つということが これだけ大変なことだと 葵は知らなかった。 不安で、何度も押しつぶされそうな夜が 何度も何度も訪れる。 その度に葵は、屋上に上がって ジッと真っ暗な空を見上げた。 気分転換につけたテレビさえ 映るもの全てが 拓人を連想させてしまうのだった。 そんな中でも葵は 仕事を休むことはしなかった。 高齢者の方たちの様々な話は 葵をゆったりとした気分に させてくれたのだった。 『会いに行くよ』 そうラインが入ったのは 先週のこと。 葵はランドリー室でひとり 感嘆の声を上げた。 ハッと我に返って 辺りを見回す。 幸いなことに 誰もそこにはいなかった。 「・・・!」 葵はフミコに その報告をしにいくために ランドリー室から飛び出した。 階段を駆け上がると 踊り場に設置されている窓から まだ夕方だというのに 漆黒の夜が広がっている。 でも葵には、その闇の向こうに 広がる星空が見える気がした。     
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