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出迎えたのは梨果の夫であり、
ここのオーナーである
金澤悠一(かなざわ ゆういち)だった。
短髪で前髪を立てているせいか
180㎝はありそうな身長が
更に大きく感じる。
目元にシワを寄せて笑う顔が
いつも優しい印象の男性だ。
「ちょっと待ってて。
もうすぐ、ももちゃんも来ると思うから」
葵は頷くと、オーナーの悠一に促された
カウンターの一番奥の席に腰を下ろした。
その席からは、厨房の中が
覗き見える。
見るでもなく覗いた葵は
そこに見慣れない男性がいることに
気が付いた。
両サイドを刈り上げて
トップは緩いパーマがかかっているのか
ゆるく波打っている。
身長は、オーナーと
同じくらいはあるだろうか。
奥にある、大型の冷蔵庫と
高さが変わらない。
ジロジロ見ていたつもりはなかったが
葵の視線に気がついて
その男性が、顔を上げた。
一瞬、戸惑ったが
葵は会釈する。
すると、男性はごく自然に
葵に軽く会釈を返すと
また手元に、視線を落とした。
葵も自分の手元に目線を移したものの
長い睫毛に大きな鷲鼻、少し切れ上がった
目元を持つ、その男性から
気持ちが離れない。
そこに、梨果が
トレイに水を乗せてやって来た。
「いらっしゃい、葵ちゃん。
今回は、オムライスなのよ~」
そう言いながら、葵の前に
手際よく、水とおしぼりを置いた。
梨果の白いシャツの腕を捲り上げた手首に
金色の細いブレスレットが揺れた。
濃い緑のサロンエプロンが
よく似合う梨果は
いつも笑顔を絶やさない店の華だ。
「わたしまで、いつもすみません」
小さく、葵が頭を下げると
「いいのよ~!女性の意見が大事だから!」
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