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姿はまだ見えぬ男の声。その声はあまりにも聞き覚えのあるものだった。
(嘘だろ!なんであいつが!!)
「それもそうね、それ、もらって良い?」
コップを持ったまま留美が反対の手を伸ばし催促する。
「ああ。キミがまさかミスをするなんて思っていないけど。ほら、でも万が一、彼の食事が僅かでもキミの口に入ったら。そんな事を考えたら居ても立ってもいられなくてね」
入ってきた男は彬仁の予想通り、やはりあの男、刑事の長谷部だった。
(お前と留美はそんな関係だったのか!よくも何食わぬ顔をして!!)
「分かっているって、あなたの極端なまでの心配性は」
「キミはこの性格を理解してくれるから嬉しいよ。世界中探してもキミくらいしかいない」
「そうよ、私くらいよ。ね、その抗原剤っていうのを飲めば良いの?」
「ああ」
目尻を緩ませ、信頼しきった顔で留美は長谷部に近寄る。
(待てよ・・・留美は青酸カリで亡くなって・・・青酸カリに抗原なんてあるのか?!)
長谷部がトレンチコートのポケットからカプセルを取り出し、留美に渡す。留美は何の警戒心もなくカプセルを摘み上げると「これね」などと呟きながら口へと放り込んだ。
「待て!!留美!!飲むな!!」
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