選択の時

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「丁度久保さんの会社にお邪魔しようと思っていた所だったんですよ。家に行ってもいつも留守なんでね。いや、それにしても凄い偶然だ」 わざとらしいくらい明るい声で男は話す。 「……えっと、長谷部さんでしたよね」 彬仁が軽く会釈をすると、長谷部も慌てて頭を下げる。 「はい、名前を憶えて貰えて何よりです」 「妻の為に色々調べて下さいましたから」 「いやいや、それが刑事の仕事ですよ。そんな事より久保さん、これから外回りです?」 「いえ、今日は半休をもらって……明日からは一ヶ月の長期休暇ですよ」 苦笑いを浮かべる彬仁から、これが望んでも無い休暇だとすぐ察しがつきそうなものだが、長谷部はより一層声色を明るくしてきた。 「いやぁ羨ましい!一ヶ月も!私達刑事なんてまともに休暇を取れませんから。妻と子供は私を置いて旅行に行ってしまうし」 「……」 彬仁はこの長谷部という男が非常に苦手だった。なので、用件だけ聞いてさっさとどこかに行って欲しい気持ちが、どうしても顔に出てしまった。 「ああ、すみません、お急ぎでした?」 彬仁の顔色に気付いているのかいないのか、長谷部は全く済まなさそうに言ってのける。 「……いや別に急ぎって訳では」 「なら良かった!いやね、実は奥さんの件で少し気になる事がありまして」 「留美の?!!」     
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