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急に顔色を変え、彬仁は大きな声をあげる。周囲を歩く人々がチラチラと彼等を見てきた。
「こんな所で立ち話も何ですから。近くに静かな喫茶店があるのでそこに行きません?」
彬仁は黙って頷くと、ノロノロと歩く長谷部の後ろをじれったそうについて行った。
年期を感じる看板にはジャズ喫茶の文字。そしてその文字通り、古びてはいるが重厚感がある扉を開けると、小さな店内はジャズと珈琲の香りで満たされていた。
「はぁ」
思わず彬仁はため息をつき、肩の力を抜く。
「マスター、珈琲二つね」
無言で頷く白髭の店主に、長谷部は慣れた感じでそう言うと、奥のソファーへと腰掛けた。
「あ、久保さんも珈琲で良かったです?」
入り口でコートを脱ぐのにもたついている彬仁に、すっかりくつろいだ様子で声を掛ける。
「あ、はい」
コートをハンガーにかけ、急いで彬仁も彼の向かいへ座る。
「で、留美の件で気になることって」
少し身を乗り出し、長谷部を責付く。
「ああ、そうそう、その話なんですけどね。いや気になるというか」
わざとらしく勿体振る言い回しに、焦れったさが込み上げてくる。
「何です?教えて下さいよ」
「いやぁ、教えるというか。そもそも久保さんはご存知なんですけど」
「だから何です」
少し苛立った口調で返す彬仁。
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