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選択の時
「今日は留美の為に皆さん……本当にありがとうございました。こんなに沢山の人が……留美もきっと喜んでいると思います」
葬儀場を背に、彬仁が深々と頭を下げる。まだ若い彼女の死は、友人達には大きな衝撃であり、誰かの支えなしでは立っては居られない者もみられた。
「留美は、誰からも愛される人でした」
やっと顔をあげた彬仁の目からは、大粒の涙がまだ零れ落ちていた。それを初秋の心地よい風が、優しく拭う様に吹き去っていった。
「久保くん、まだ有給が沢山残っていたよな」
出勤早々、係長の口から出て来た台詞に彬仁はやはりな、と思った。ここ数日ミスが目立っていたし、彼自身もこんな状態で仕事が出来ない事は理解していたからだ。
「家に居るのが辛いのも分かる。でも、無理して会社に来るのはもっと辛いだろう。どうだ、一ヶ月くらい休みをとって海外旅行にでも行ってみるのは」
「はぁ……」
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