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「今もそうだが、昨日の反応を見る限り響希は覚えていないのだろうな。気楽なやつめ」
「おいこら、何かよくわからないけど、バカにされてる? 喧嘩売ってるのか?」
「そんなつもりはないが、買ってもらわなければ困るのは確かだな」
つい売り言葉に返してしまったが、らしくもなく挑発的な態度を続ける賢吾に怪訝な思いを抱き始める。
「ところで、俺の好きな相手のことなのだが」
「へ?」
「その子は子供のころからの付き合いでな。俺はずいぶんとその子に泣かされてきたんだよ」
「おい、ちょっと」
「俺も男だからな。好きな相手に負けっぱなしなのは嫌だった。だからある日、決意を込めて言ったんだ。『俺が勝ったら、ずっと隣にいさせてください』とな」
「……」
「そしたら、その子は何て言ったと思う? 『あんたは弱っちいから、私が面倒を見てあげる』ときた」
「……おぅ」
「だから俺はこう返した。『俺はお前に面倒なんて見てもらいたくない』と」
「あ、あのさ、賢吾。それって」
「お情けで隣にはいたくない。その振られた相手にリベンジして、認めさせてやろうと思っていた。俺がこうして空手を続けている理由は、そんなところだ」
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