夏の日、湘南国道134号。

2/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 悲しみや苦しみは時間が解決するというが、一体どれほどの時間を要するのだろう。例えば、1ヶ月? 半年? 1年? 自分の記憶の中に眠る過去を掘り返してみても明確には思い出せない。出会い、別れ。その度に心は張り裂けそうなほど鼓動を高めてはいつしか鳴りをひそめる時が来る。別れの時には毎回感情が溢れてやまないのに気づいた時には前を向いて、また新たな恋に向かっている。きっと、時間という概念ではないが、そういった出会いのサイクルをわかりやすく時間と置き換えているのだろう。人というものは愚かだから何度胸を裂く思いをしても恋をする。毎日がとりとめもなく虚しいものだと認めているからこそ、幸福を願って人と出会う。 * 「海が見えてきたよ!」  隣から聞こえてきた声にハッとして反射的に左側に顔を向ける。寝ぼけ眼に夏の夕の日差しが眩く刺さり細く外を見る。雨の季節に差しかかろうとしている6月の束の間の晴天。空気は熱を持ってもまだ海は冷たいのだろう、波を追う彼らはウエットスーツで身を包んでいる。それでも海の街、人の数はそれなりにいる様子だ。もう少ししたら道も車に埋まるだろう。  ざっと眺め顔を反対に向ける。ハンドルを持った彼の顔は海からの反射光に照らされていた。 「ごめん、俺どのくらい寝てた?」 「うーん、そんなでもないよ。多分20分くらいかな?」  仕方ない、といった形に彼の口元が緩んでいるのに気づき安堵する。朝から運転している彼を放っておいてうたた寝してしまっていた罪悪感を拭うため、今日の夜はゆっくり寝かせてやろうと心に決めた。  日中に横須賀の猿島を散策していたため腕や顔がわずかにヒリヒリと痛む。無意識に腕をさすりながら口を開く。 「藤沢まであと1時間くらいか」 「そだね、てか夕飯何食うよ? 寝てたんだからちょっとそれ調べといてー」  間延びした声でそう自分に伝える。右ポケットに入れていた携帯電話を取り出し画面をスワイプする。こいつに何を食うか聞いてもいつも『肉』としか答えないもんなと考えながら泊まるホテル周辺の飲食店を探す。今日の夜も焼肉にしようと決めある程度の目星をつけ携帯電話を閉じ前を向いた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!