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エヴァンはふうっと息を吐いた。どこか嬉しそうだ。
「今日はもしかしたら、野宿を免(まぬが)れるかもしれないぞ――君もその方がいいだろう?」
カレンはすぐに頷いた。
実のところ、一日歩き続けて足がくたくただった。明日も一日歩くのだろうから、できるだけ体を休めたかったのだ。
エヴァンはカレンが賛成したのを見て取ると、宿の正面に向かった。そのまま、木でできた扉をとんとんと叩く。
「ごめん下さい」
扉がギイっと音を立てて開いた。なんだか大分古い家のようだ。
カレンはその様子を傍(はた)から見ていたが、エヴァンの横顔が一瞬、真顔になるのが見えた。
けれど、相手と話しているうちに、その表情は崩れ、にこやかな笑みへと変わる。
「そうです……ええと、はい。おっしゃる通り。僕たち二人、道に迷ってしまって、宿を探していたんです」
「そうか。まあ遠慮せず、中に入ってくれ」
そんなしわがれた声が聞こえてくる。
「ではお言葉に甘えて」
エヴァンがそのまま足を踏み入れるのを見て、カレンは彼の後に続いた。
そうして目を見張った。
家は普通のものと変わりない。温かみのある木造で、戸棚や机や椅子、生活に必要なものがそろっている。
問題は家の主人だった。
背の曲がった老人――のような風体(ふうてい)をしていたが、その顔に奇妙な面を被っている。白い面には赤い塗料で、子どもの落書きのような目と鼻と口が描かれていた。
頭には帽子を被っているが、そこから尖った黒い耳がはみ出している。よく見れば、服から覗く手は毛むくじゃらで、カギ爪がついていた。
まるで、獣が服を着てそのまま歩いているようだ。
「エヴァン」
ぞっとして、思わず青年に呼びかける。けれど、ささやくような声が聞こえなかったのか、彼は主人に勧められるまま、にこにこと椅子に腰かけていた。
「エヴァン」
もう一度、カレンは青年にささやきかけた。
「うん、何かな?」
不思議そうに問う青年に、カレンは何か得体のしれない恐怖を感じた。
「こ、ここ、おかしいわ。出ましょう」
「そうは言っても、せっかく泊めてくれると言ってるんだ。今更断るのは失礼だろう?」
彼は平然とそんな事を言う。カレンは何か、得体の知れない恐怖を覚えた。
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