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「あれが見えないの? どう見ても人間じゃな――」
必死に言い募るが、最後まで言えなかった。エヴァンがこちらの口を塞ぎ、困った顔で言ったのだ。
「さっきから失礼だよ。もう少し礼儀をわきまえないと」
そう言ってじっとこちらを睨む。
カレンが身を竦ませると、彼はやれやれと言った様子で手を離し、椅子に座り直した。
そこに先ほどの主人がやって来た。手には料理の載った皿を持っている。
奥から同じように、仮面をつけた何者かが現れた。そちらはピンクの服にエプロンをまとい、頭にホワイトブリムをつけていた。どうやら主人の妻のようだ。やはり黒い耳や腕が覗いている。
彼ら二人――いや二匹は、皿を机の上に丁寧に並べた。
「これは俺たちが作ったものだ。だいぶ手間がかかったぞ」
しわがれた声で主人が言う。
「心を込めて作ったのよ。どうか召し上がってね」
妻が穏やかな声で続けた。
皿の上には、しなびた大きな葉っぱが数枚載っていた。
どう見ても料理と言える代物ではない。カレンが絶句していると、隣でエヴァンが目を輝かせた。
「これはおいしそうだ。全部、僕らのために?」
「ああ、そうだとも」
「さあ、召し上がって」
その異様な光景に、カレンはいよいよ逃げ出したくなった。おまけに、エヴァンはフォークで葉を丁寧に差し、おいしそうに食べ始めたのだ。
一体彼は、何を考えているのだ。
もともと少々ふざけた部分はあったが、彼はこう見えて洞察力に長けている。
なぜこんな葉をおいしそうに食べているのか、まったく分からない。
「エヴァン、ねえ聞いてるの?」
カレンは彼の腕を引っ張った。エヴァンはむしゃむしゃと葉を食べている。
仮面の二匹はそれを見て、嬉しそうに顔を見合わせた。
「待っててくださいね」
「もっと持ってこよう」
二匹はいそいそと奥の部屋へと向かう。その先にきちんとした台所があるのかどうかも、カレンにはもう分からなくなっていた。
目の前にも、葉の載った皿が置かれている。しなびた緑の葉を、どうしても食べる気にはなれない。
カレンがそっと目を逸らすと、床に何かが落ちているのが見えた。
思わず席を立って拾いに行く。それは茶色い表紙の小さな手帳で、手に取ると日記のようだと分かった。
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