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元気よくアクアが声を投げると、店主が、レジの向こうで、笑顔を浮かべて「いらっしゃい」を返してくれた。
アクアに続くように、タスクも店に入る。
「こんにちは」
声をかけて、店の奥で立ち止まるアクアに気付いた。
「アクア?何見てんの?」
視線を追うが、そこには、他の客がいるばかり。
タスクは、小首を傾げたあと、冷蔵ケースに向かった。
「アクア、パン選べよ?」
「うん……」
空返事をして、アクアは、むりやり視線を引き剥がした。
パンのトレーとトングを手に、棚を見ながら、アクアの意識は店内にいる他の客へ向いていた。
「(あの人、見たことある!絶対ある!)」
目の前のパンを睨みつけて、真剣な顔で唸り始めるアクア。
「アクア?」
訝しげに、タスクが声をかけた。
我に返り、アクアは、タスクを振り返った。
「何、パンを睨みつけてんの?」
「だってっ……」
言いかけて、アクアは、力なく口を閉じた。
見たことがあるはずの客が、何も買わずに店を出ようとしていた。
黒い髪と黒い上着、背は、それほど高くない。
「……あ」
思い出した―――アクアは、小さく声を上げて、店を出る男を見送った。
「何…?」
アクアの視線を追って、タスクも、店を出る黒い上着の男を見やる。
「あの人、どうかした?」
「俺が帰ってきたときに、玄関にいた人」
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