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「今の人?」
「うん、絶対にそう!」
「見たことないなぁ。でも、雨宿りしてただけだろ?」
「……うん」
男の纏う冷たい雰囲気と、全く記憶に残らなかったことが気にかかる。
アクアは、晴れない心のまま、パンを幾つかトレーに乗せた。
店主と言葉を交わす、その間も、男の姿は、アクアの脳裏を離れなかった。学校から帰ったあの時は、あんなにきれいに忘れていたのに。
支払いを済ませ、店の扉を開けると、鈴がカランと軽い音をさせた。
暖かな店内を出ると、余計に寒さを感じる。
西から、雲の隙間を縫って町へ差すオレンジ色は、ほんの僅かな量しか残っていない。空の半分以上が、暗い紺色。
「雪だるま、作れない……」
「明日作れるよ」
タスクの言葉に、アクアは、頬を膨らませた。
「タスク、明日仕事じゃん。一人で作っても、面白くないし」
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