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 転ばないように、ずっと雪の道を見つめている。真っ白な町によく映える赤のニットと、紺色のコート、エンブレムがついた黒のマフラー。  全部、学校の制服。  ニットの下のクリーム色のシャツも、学校指定のものだ。今は、ラフに緩めて結んだ黒のネクタイも、マフラーと同じエンブレムがついている。  本当は、ネクタイをするのも、指定のマフラーもシャツも好きじゃない。普段は、マフラーは全く違う市販のものを使っているし、ネクタイなんて締めて行かないし、学校指定のシャツを着ることも珍しい。  しかし、今日は、生徒指導でチェックが入る日だったし、起きてみたら雪が積もっていて、朝からテンションが上がったから特別だった。  空は、白よりもずっと濁った灰色で、積もった雪で歩きにくいことこの上ない。  しかし、彼の足取りは軽かった。  顔は白く冷たくて、頬だけが赤く、吐く息は白く、儚く消える。  だけど、降り積もった雪が、口元を緩ませ、琥珀色の瞳は楽しげに輝いていた。  アクアの家は、この商店街を抜けた先にある。  もう、10分もかからない。  アクアの口元が緩むには、もう一つ理由があった。  今日は、「ただいま」と帰ったら、「おかえり」と声が返ってくる。寒く冷えた部屋ではなく、充分に温まった明るい部屋がある。     
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