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アクアの紺色のコートの裾が、冷たい空気を含ませて、ふわりと舞った。
「あーちゃん!」
前方からの声に、足下に落としていた視線を上げて、足を止めた。
一つ年下の少女・カナが、同じコートを着、同じマフラーを巻いて、必死に手を振っている。
アクアの顔から、スッと輝きが消えた。
こちらへ駆けて来るカナの傍らには、彼女の母親がいる。学校帰りに買い物をしているらしく、母親の腕に、買い物袋が抱えられていた。
「あーちゃん、今日遊べる?」
頭一つ分小さいカナが、アクアを正面から見上げた。
雪が降って嬉しいのは、カナも同じらしい。外で遊びたいと、顔に出ている。
「今日はタスクがいるから、ダメ」
「え~」
ふて腐れるカナの横で、彼女の母親が、安堵の笑みを浮かべていた。少し勝ち誇ったようにも見える。
それを見て、アクアは気付かれないように、そっと、小さなため息をついた。おそらく、自分が「いいよ」と言ったら、外へ遊びに出てもいいと言われていたのだろう。
「ばいばい、カナ」
笑顔を見せて手を振って、母親にお辞儀をして、アクアはまた、雪の道に視線を落として歩き出した。力なく、ゆっくりと。
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