7人が本棚に入れています
本棚に追加
訝しげに眉を寄せるアクアの視線の先に、二十代前半か、十代後半くらいの男が一人。アクアの家の軒下で、どうやら、一休みをしているらしい。黒く短い髪に、黒っぽい服装。両手は上着のポケットの中だ。肌は、透き通るような白さ。瞳の色は、この位置からでは確認できない。
「(邪魔だなぁ)」
男がいるのは、玄関扉のすぐ隣。
自分の家はすぐそこで、早く入りたいのに、入りにくいことこの上ない。
いつまでも立ち尽しているわけにもいかないので、アクアは、口を一文字に結んで、男を気にしながらも、視線は下にやり足を進めた。
傍までいくと、それまで、ぼんやりと斜め下を見つめていた男が、アクアのほうを振り向いた。
視界に入った男の体の動きに、アクアも、彼のほうへと視線を上げる。
黒い瞳が、アクアを捕えていた。
アクアは、立ち止まり、体を硬くして身構えた。
相手は何も言わない。
「何か、ウチに用ですか?」
警戒心丸出しの声にも、男は、表情一つ変えず、歩き出した。上着のポケットに手を入れたまま、何も言わずにアクアの方へ歩いてきたかと思うと、すぐ横を、静かに通り過ぎていった。
アクアは、自分が歩いてきた方へと遠ざかっていく男を振り返り、後ろ姿を呆然と見つめた。
「何あれ……?」
独りごちて、玄関へ向かう。
男が先ほどまで立っていた軒先で、雪を払い、木の扉を開けた。
「ただいまぁ」
中へ響いた声が、今のアクアの不快を良く表わしていた。
最初のコメントを投稿しよう!