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追憶
「じゃあ、行ってくるから。いい子にしているのよ」
その声は子供に向けられた声ではない、と幼いながらに感じていた。閉じられる玄関のドア。綺麗に着飾った母親とは裏腹に、玄関には腐臭を放つ真っ黒のゴミ袋。中身は、コンビニで買った弁当か、カップ麺か。
空腹でぐう、となるお腹を抱えて、とぼとぼと廊下を歩く。まだ小さい背でも走り回れば、ものの数秒で過ぎる廊下も、長く、長く感じた。
たどり着いたキッチン。背伸びをして開けた冷蔵庫。届かない位置に冷えた弁当があった。食卓から椅子を引きずって、よじ登って取り出した。弁当の具は、揚げ物ばかり。温め直せば、まだ美味しいかも知れないが、そんな気力はなかった。
固いご飯、箸が折れそうになるほどしなる。口に運び、もぐもぐと咀嚼する。――砂を噛むような味がした。
「あたし、いい子じゃ、ないのかな。いい子にしていたら、優しくしてあげるって、そう言ったのに」
箸を進めるごとに、空しい涙が、頬を伝った。
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