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面会の場所を面談室に移し、しばらく待っていると、ドアをノックして女生徒が入って来た。担任から紹介をされたのは、芦屋川愛菜。生前、紫音と愛菜の二人は親友だったと。
「失礼します」
頭を下げると、さらりと長い髪が揺れた。弥佐暮は、自分の指通りの悪い髪と比較して、淡い嫉妬を覚える。
「しーちゃんのことを調べているんですか」
「はい」
愛菜は、紫音のことを“しーちゃん”と呼ぶ。
「紫音さんと親友だったと伺ってるわ。生前の紫音さんについて教えてくれる?」
弥佐暮がそう尋ねると、愛菜は年齢に似合わない、怪しい笑みを浮かべた。弥佐暮は、背中を虫が這うような感触を覚えた。
「御託はいいですよ。あなた、知りたいんですよね。どうして、しーちゃんが自殺したのか」
その声はねっとりとしていた。
「しーちゃんのお母さんが、言っていたでしょ。あんな“いい子”が自殺なんてって。探偵さん、私思うんですよ。“いい子”って凄く残酷な言葉だなって」
愛菜は弥佐暮のことを、“探偵さん”と呼び、心の古傷を抉って来た。
「しーちゃんはね、自分が必死に作った表の皮張りをみんなに気に入られて、それだけで生きて来たんです。勉強を頑張ったのも生徒会に入ったのも、誰かの役に立つことが好きだから。しーちゃんはね、人助けが大好きなの。将来は看護婦か介護職だって言ってた。――探偵さん、しーちゃんのお母さんの職業は聞きました?」
いいえ、と首を横に振ると、にたぁっと笑った。
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