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籠目々々
弥佐暮は里佳子のマンションを訪ねていた。事件解決の確信を持って、緊張した面持ちで。
相変わらず心労を露にする里佳子の前で、紫音が隠してきた事実を口にするのは気が引ける部分もある。しかし、弥佐暮は、それを告げないわけには行かなかった。仕事だからというのもある。でもそれ以上に、紫音が抱えていた境遇に、弥佐暮は思うところがあった。
案内された里佳子の居室には、紫音の写真や、彼女がもらった賞状も飾ってあった。彼女はバイオリンも上手だったと。
(大切にはされていたんだろうな、自分とは違って)
もう帰らない娘のことを話す時は、苦い表情も和らぐ。母親らしい表情を見せる里佳子。弥佐暮は、頭の中で里佳子と自分の母親を比べていた。
「宇都宮さん、脅迫状の送り主が判りました」
里佳子は、「誰なんですか」とすぐさま返した。一刻も早く、恐怖から解放されたかったのか。
「ですが、その前に、あの童歌の話をします」
かごめかごめ、脅迫状の送り主が綴った童歌を弥佐暮は口ずさむ。
「かごめかごめ、籠の中の鳥は、亡くなった紫音さんの暗喩です。あなたに大切に育てられていた紫音さんは、籠の中の鳥に喩えられていました。いついつでやる、いつになったら解放されるのか。夜明けの晩に鶴と亀が滑った――鶴と亀が滑ったは、死を暗示し、夜明けの晩は、全ての終わりを意味する。死を以って、紫音さんは、あなたという存在から解放された。後ろの正面だあれ、これは死体が口ずさんだ言葉。“私を殺したのは誰?”――それは、宇都宮さん、あなたのことです」
つらつらと述べる弥佐暮。どうして私が責められないといけないのか、と里佳子は涙を流しながら、怒りを露にした。
「宇都宮さん、あなたは、紫音さんのこと、“いい子”だと言っていましたけどね。それを紫音さんに強要していたんですよ」
「なんで、そんなこと、あなたに言われなければいけないんですかっ! 脅迫状の送り主も、そんなこと余計なお世話です! 私は、あの娘の母親なんですよ! それを他人がよってたかって、何なんですかいったい」
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