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「脅迫状の送り主は、芦屋川愛菜。紫音さんの親友です。あなたも名前は知っているはずです。あなた、紫音さんが将来、看護婦や介護職を目指すと言っても、否定したそうですね」
「それは、辛い仕事だからよ」
「ええ、分かってます。けれど、それは紫音さんがようやく抱いた、自分の意思だったんじゃないですか。彼女は、ずっと誰かの役に立ちたい、いい子でいたい。それだけだったんです。それがこんな形になったことは、悲しいことです」
そこで、悲しみよりも勝っていた怒りが沈んで、里佳子は泣き崩れて机に伏した。
「そ、そんなの……言ってくれないと、分からないじゃないですか。なんで、急に私を置いて……」
「紫音さんも、困らせたくなかったんでしょうね。あなたが辛いお仕事をしているのを知っていて、刃向かうこともできなかった。私も、育児放棄を受けていたから分かるんです。親という存在は、子にとって、親が考えるよりもずっと、重いんです。良くも悪くも」
それから弥佐暮は、黙って里佳子が泣き止むまでを見送った。もう言うべきことは言った。それでも、里佳子のたったひとりの家族は帰ることはない。
後日の聴取で、脅迫状の送り主は、やはり芦屋川愛菜であることが判った。彼女には然るべき指導が入ることになった。
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