追憶

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「ああもう、ノックしてから入ってくださいよ。女の子の部屋なんですから」 「競馬新聞とゴミだらけの部屋を、女の子の部屋とは言わねえ。貸し事務所の賃料滞納しているうえに、寝泊まりして競馬実況ばっかり、たいがいにしろ」  ぐちぐちと文句を言う男は、この事務所スペースを貸している大家。大家の愚痴に弥佐暮は、耳を貸すどころか、ラジオから漏れる音声に落胆していた。 “マジマンジ、三連続一着の栄冠を手に入れたぁあっ” 「あ~もうっ、また負けたぁあっ! 大家さん、今月も待ってください!」  なぜか覇気のある口調で滞納を宣告。 「競馬で勝ったら払おうとしてたのかよ。ギャンブルで時間を浪費するくらいなら、仕事を」  やれやれと、ため息をつく大家の声が届いたのか、事務所の電話が鳴った。弥佐暮は、久々に舞い込んできた仕事の電話に飛び上がり、意気揚々と受話器を取る。 「はい、弥佐暮探偵事務所です」  依頼内容と事務所を来訪する時間を聞き出し、通話を終了。 「よっしゃあ! 馬に賭ける金が出来たぁ!」 「いや、賃料に使え!」
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