3人が本棚に入れています
本棚に追加
「すみません、他をあたります」
ぷいと背を向ける女の肩をがしと掴む弥佐暮。
「ちょ、待ってください。お茶菓子も出しますから!」
何とか引き留めた依頼人には、ポテトチップスと麦茶が出された。
「どうぞ」
「ポテチを客に出す探偵なんて、見たことないんですけど」
「一応、来客用にリッチな、サワークリームオニオン味です」
「あなたの匙加減は知らないです」
小言を言うものの、ソファに腰かけ、ポテトチップスを食べる。とりあえず、逃げられることはなさそうだと弥佐暮は安堵した。
「お名前をお伺いしてもよろしいですか」
「宇都宮里佳子といいます」
「依頼の件は――」
と言いかけたところで、里佳子のやつれた手が、一枚の写真を差し出す。同じくやつれた顔は、心労を訴えていた。
写真の中で学生服に身を包んだ少女が、優しい微笑みを浮かべている。
「娘の紫音です。先月、亡くなりました。まだ、十六歳でした」
言葉を紡ぎ出す唇は、弱弱しく震えている。亡くなって一箇月も経っていない。まだ、現実を受け止めきれていないという様子だった。
弥佐暮は言葉を失った。沈黙が、しばしの間、二人を包み込む。
「娘は自殺したんです。自分の喉を切り裂いて。まだ信じられないんです。いい子だったのに、あんな死に方をするなんて」
消え入るような声の裏に、嗚咽が漏れる。自分で自分の喉を、カッターナイフで切り裂いて死んだのだという。それを聞いただけでも、血みどろの凄惨な最期が思い浮かぶ。弥佐暮は、ますます顔を歪めるばかりだった。
最初のコメントを投稿しよう!