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娘の自殺を受け入れられないあまり、他殺の可能性を何度も警察には訴えたと。ただ、事実は事実。覆ることは叶わず、もっとも、娘も帰って来るわけもなく。つらつらと語るうちに、里佳子の頬を涙が塗らした。
「納得できるわけ、ないじゃないですか」
黙って頷いて、相槌を打つ。ここまで肝心の依頼の内容は、出ていない。もしや、娘の自殺を覆して欲しいとか、そういう話しか、と弥佐暮は思案していた。
「一連の捜査が終わって、学校に置いていた遺品を整理していたところ、こんなものが出て来たんです」
宇都宮が写真の横に、ぐしゃぐしゃになった便箋を置いた。震える手で書いたような不安定な字体で、童歌の歌詞が記されていた。
かごめかごめ かごのなかのとりは いついつでやる
よあけのばんに つるとかめがすべった
うしろのしょうめん だあれ
「かごめかごめ」、大勢が目隠しをしてしゃがみ込む一人を取り囲んで、歌いながらぐるぐると回る。最後の一節、「うしろのしょうめん だあれ」のところで中の人に、背後の人が誰なのかを当てさせる。弥佐暮も、幼少の頃、友達とよくやっていた遊びだ。
しかし、ぐしゃぐしゃになった便箋に、不安定な字体で書かれたそれは、懐かしさなど微塵も呼び起こさない。むしろ、恐怖を呼び起こすものだった。
「こんなものが彼女の机の奥から出てきて。これは、娘からの謎かけだと思うんです。きっと何か、伝えたいことがあったと思うんです。弥佐暮さん、お願いです。教えてください。どうして、娘は……死ななければいけなかったのですか」
それが、里佳子が弥佐暮に持ち掛けて来た依頼案件だった。
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