脅迫状

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脅迫状

 明くる朝、弥佐暮は東京都立中央図書館を訪ねた。国内の公立図書館としては最大級の蔵書を誇るこの場所で、お目当ての本は、民俗・伝承に関する図書。 (これが良さそうかな)  手に取ったのは、童歌に関する伝承が記されている文献。古くから伝わる様々な童歌の歌詞の意味を紐解いたものだ。「いろは歌」に込められた残酷な物語と連ねて、「かごめかごめ」の歌詞の解説も、そこにあった。  椅子に腰かけ、本腰を入れて読み進める。  「かごめ」は漢字をあてると、「籠目」となる。籠の網目を表す。その籠の中には、一羽の鳥が捕えられている。これは、赤子を孕んだ妊婦の暗喩とも言われていて、「いついつでやる」は、その赤子がいつ生まれるのかと解釈もできるそう。  続く、「夜明けの晩」という言葉が指す時間帯には、諸説ある。夜明けの晩など存在しないから、存在しない時間を表すという、そのままの解釈。真夜中過ぎだとか、あるいは、物事の終わりだとか。曖昧で言葉足らずな歌詞は、いくつもの物語を孕むようになっていた。その中から凡そ関係するだろうものを抽出して、弥佐暮は手帳に書く。 (さすがに赤子を孕むだとかは、関係はしないか。死んだのは高校生。在学中に妊娠が発覚したという事態があれば、大事になっていたはずだ)  そうしてたどり着いた歌詞の意味は、歌詞そのままの内容からあまりかけ離れていない、無難なものとなった。
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